大学の卒業式や成人式などの晴れの日に着る正装としておなじみの袴。実は、袴は種類によって登場したルーツやそれぞれの形状に違いがあることをご存知でしょうか?
今回は、現在の日本で着られることが多い「馬乗り袴」と「行灯袴」が生まれた経緯やその歴史を紹介するとともに、それぞれの袴にはどのような特徴がみられるのかを解説していきます。
また、馬乗り袴と行灯袴以外の「武者袴」や「武道袴」といった袴についてもご紹介しますので、参考にしてください。
目次
袴の種類は馬乗り袴と行灯袴に分けられる
現代の日本において着られることが多い袴は、馬乗り袴と行灯袴の2種類に大きく分けられます。
このふたつはどちらも正装や礼装として古い時代から着用されてきた歴史があるため、馬乗り袴も行灯袴も両方がそれぞれ正式な袴として考えられています。
現代においては、馬乗り袴は男性に着られることが多く、行灯袴は女性に着られることが多くなっていますが、どちらも性別を問わず着用することができます。そのため、男性が行灯袴を着ることもできますし、女性が馬乗り袴を着ることもできます。
馬乗り袴と行灯袴に分かれた経緯は?
元々、袴は宮中で使用されており、江戸時代になると正装として侍や大名が身に着けていたという歴史があります。
当時は男性が身に着ける正装として用いられてきましたが、明治時代に入ると女性も袴を着用するようになり、やがてスカートタイプの行灯袴が登場、普及していきました。
そして現代の日本では袴は卒業式、成人式、結婚式などに正装として用いられるだけではなく、普段着やおしゃれ着としても着用されるようになりました。
馬乗り袴
馬乗り袴は、元々は江戸時代において武士が身に着けるための袴として登場し、主に乗馬時に使用されるものとして浸透していきました。
男性向けの袴として卒業式などに着られることが多く格式が高い、羽織付きの紋付袴も馬乗り袴に該当します。
紋付袴以外の馬乗り袴としては、広がった裾の形状が特徴的な平袴が代表的なものとして挙げられるでしょう。平袴は一般的な礼装用の袴とされており、伝統的かつ高品質な生地が使われることが多い特徴があります。
また現在では礼装用として用いられる平袴から発展して、普段使いやおしゃれ着用として形状をアレンジした馬乗り袴も登場しています。
馬乗り袴の2つの特徴
馬乗り袴は、行灯袴とは異なる様々な特徴を持っています。
ここでは、馬乗り袴が具体的にどのような構造をしているのか、どのようなシーンで使われるのかなどを詳しくご紹介します。
二股構造になっており、シーンを問わず着用できる
馬乗り袴の大きな特徴のひとつが、行灯袴とは違いズボンやキュロットのように二股に割れた構造をしている点です。
この二股に割れた部分は「中仕切り」と呼ばれ、馬に乗りやすいよう設計されたと考えられています。股部分が割れていることにより足を捌きやすいため、運動時に身体を動かしやすく便利なメリットがあります。
そのため、現代においては性別を問わず着用されやすい袴といえます。
事実、剣道や合気道といったスポーツや、巫女の方が礼装として着用する場面など、馬乗り袴から派生したズボン・キュロット状の袴を女性が着用する場面を見ることも多いでしょう。
また、馬乗り袴はズボンのように履くことができるため、一生に一度の晴れの日に着る礼装としてだけではなく、普段着や仕事着としても着用することも可能です。
襠(まち)が短く、足を大きく広げやすい
馬乗り袴は、武士が旅の際に着用する野袴(のばかま)という袴のひとつとされており、「襠(まち)」という股上の部分が短めに作られている特徴があります。
これにより、襠のない行灯袴よりもズボンに近い感覚で着用することができます。
また、足を広げて馬に跨りやすいため、走ったり足を大きく動かしたりする場面でも、袴で足の動きが制限されることが少なく、快適に過ごせる特徴もあります。
行灯袴
行灯袴とは、馬乗り袴のような「襠(まち)」という中仕切りがない、ロングスカートのような形状をした袴のことです。
それまでは女性が袴を着る場合は男性と同じく馬乗り袴を着用することが一般的でした。
しかし明治時代に、華族の女学校で用いられていた行灯袴が婦人用や女学生用の袴として登場してからは、女性が普段着やファッションとして着用する場合は行灯袴が用いられることが多くなっていきました。
現代の日本において行灯袴は、大学生の卒業式や成人式などに女子が着用する華やかな礼装として用いられることが多いでしょう。行灯袴と華やかな振袖・着物を組み合わせて、袖丈が長い上品な和の礼装として着用することができます。
行灯袴の2つの特徴
馬乗り袴と同様に、行灯袴にも様々な特徴があります。特に大きな特徴として挙げられるのは、その構造と、袴を着るときの長さが男女で異なることです。
以下で行灯袴の特徴について、もう少し詳しく解説していきます。
構造がスカートタイプになっている
行灯袴の大きな特徴のひとつが、ロングスカートのような筒状の構造になっていることです。スカートの形状をしていることで、裾に足を取られにくく動きやすいメリットがあります。
行灯袴が流行し始めた江戸時代後期から明治時代にかけては、女学生が着用する行灯袴は海老茶色のスカートタイプと指定されることも少なくありませんでした。
しかし現代においては、袴の色も、上に重ねる着物や振袖の模様も、着用する人が自由に個性を出して構わないと考えられています。
ちなみに、行灯袴は女性専用ということはなく、男性であっても行灯袴を着用することができます。
実際に年末年始のパーティーやお祝いなどに和装スーツ風のファッションとして着用する男性も少なくありませんし、座禅用の座禅着として着用されることもあります。
男性は腰・女性は胸下の長さで着る
行灯袴は馬乗り袴と同様、男性・女性の両方に着用される袴ですが、実は性別によって袴を着付ける際の高さに違いがあります。
具体的には、男性の場合は腰の高さに合わせて袴を着付けますが、女性の場合は胸のすぐ下に合わせて高めに着付けます。そのため、女性の方がより高い位置で袴を着付けることになるでしょう。
他にも、男性の場合は腰板を加えて背筋をしっかり伸ばす補助をしますが、女性の場合は胸元で帯を締めることで背筋をすっと伸ばすという違いがあります。
馬乗り袴と行灯袴以外の袴の種類
袴には馬乗り袴と行灯袴以外にも複数の種類があり、武道用の稽古着から普段使いできる日常着まで様々なものがあります。
ここでは、馬乗り袴と行灯袴以外の袴について、詳しく解説していきます。
武者袴(むしゃばかま)
武者袴は馬乗り袴よりも細身なつくりになっており、さらに足が捌きやすい特徴を持っている袴です。裾が広がらないため、一見すると太めのズボンのような印象を与えます。
主に剣道や居合、合気道といった武道の稽古着として着用されることが多いですが、そのシルエットから普段着としても採用しやすい袴です。
忘年会や新年会などのパーティーに出席する際のフォーマルな和装として使われることもあるでしょう。
野袴(のばかま)
野袴は江戸時代における武士の旅行用や、近所への外出、畑仕事など、当時から普段使いとして使われることの多い袴です。
ズボンタイプの馬乗り袴と同種類とされており、運動や足捌きがしやすいよう裾が細いつくりになっているのが特徴です。素材には木綿などの通気性を重視したものが使われることが多く、軽くて薄手の袴が多いことも特徴といえるでしょう。
また、近年ではさらに工夫が施された野袴が作られるようになり、チャックやポケットが付いた野袴も登場しています。
洋服のズボンのように気軽に普段使いしやすいつくりになっているため、普段着として袴を使いたい方の入門用としてもおすすめです。
裁着袴(たっつけばかま)
裁着袴(たっつけばかま)は、馬乗り袴や野袴と同様、股部分がズボン上に割れていて動きやすい形状をしているのが特徴です。
また、膝下部分に脚絆(きゃはん)を縫いつけるような形状のため、裾が足に引っ掛かりづらく、軽快な動きがしやすいです。
歩行や運動のしやすさから当時は武士や猟師を中心に幅広い人に用いられ、伊賀の忍者も裁着袴を着用していたといわれています。
現代の日本においては、相撲の土俵を掃除する、力士を呼び出すなどの役割を持つ「呼出」と呼ばれる方や、お祭りなどで神輿の先導や太鼓の打ち手を担当する方に着用されることが多いでしょう。
軽衫(かるさん)
軽衫(かるさん)は馬乗り袴や行灯袴といった一般的な袴よりも丈が長く、非常にゆったりとしたスラックスのような印象を与える袴です。
そのため袴の中でも特にカジュアルな着こなしがしやすい特徴をもっています。
ヒップまわりがゆったりとしており足捌きもよいため、普及した当時から町の中の多くの人々に親しまれる袴となっていました。
武者袴などのように稽古着として使うこともおすすめですが、野袴や軽衫のように普段使いとしても着用しやすい袴といえるでしょう。
雪袴(ゆきばかま)
雪袴(ゆきばかま)は、主に積雪が多い寒冷地や山岳地帯において作業着として着用される袴です。
雪袴は「もんぺ」や「山袴」とも呼ばれ、腰板がついていない仕事着としての袴を総称して呼ぶことが多いでしょう。
雪袴は防寒着の役割を担っており、丈夫で耐久性が高い麻などの素材がよく使われています。
また、雪の上をスムーズに歩きやすくなるよう、野袴のように裾をすぼめたデザインのものが多いでしょう。馬乗り袴のような二股構造のズボンタイプになっているため、断熱性や運動のしやすさにも優れています。
まとめ
袴の種類はズボンタイプの「馬乗り袴」とロングスカートタイプの「行灯袴」のふたつに大別され、礼装の場合は男性が馬乗り袴、女性が行灯袴を着用することが多いです。
しかし現代においては、性別に関係なく馬乗り袴と行灯袴のどちらを着用しても問題ないとされています。
卒業式や成人式といった晴れの日に着用する礼装としてだけではなく、普段着やおしゃれ着として着用することもできるため、興味のある袴を気軽に試してみましょう。その際、袴のレンタルサービスを利用することも有効です。